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古くからの地名は、地形に由来しているものが多いといわれます。
当サイトでは、基本的に国名は地形由来と考えます。ただし、その上で注意すべき点があります。
広域の地名は範囲内の一地域名に由来
広域を表す地名は、範囲内の一地域の地名に由来しています。
つまり小地域→大地域という命名パターンなのです。
たとえば国の場合、国名は国域全体の地形を表しているものではないのです。
昔はGoogle earthはもちろん、地図もありませんでした。そのため国域全体のような広域の地形を把握することは困難であったと想像できます。
しかも広域になれば、その中に様々な地形が含まれ、一概に地形の特徴を表すのも難しいと考えられます。
そのため、多くの国名は国内の一地域名が採用されていると推定されます。そして、その一地域名がその地域の地形を表現しているのです。
そして、その一地域がその国の(当時の)中枢地域であった可能性が高いと考えられます。
旧国の頁でも説明しましたが、かつて旧国(令制国)の中に郡、その中に郷、という国郡郷の三層構造で地理表記がなされていました。
その中で、国内に国名と同名の郡や郷がある国があります(旧国一覧参照)。その場合、その郡や郷が地名由来と考えることが出来ます。
国内に同名郡・郷がない場合、地名発祥となる地点が国内にあり、その地点の地形が国名に採用されたと考えます。
もしかしたら郷名より小規模な地名で、国名には採用されたが郡名や郷名に採用されず、そのまま由来地名としては消滅したのかもしれません。
あるいは郷名に採用されたものの、改称されてしまったかもしれません。
『和名類聚抄』以前の地名は、平城京跡の出土木簡など調べる術が限られ、現段階では詳細を調査することができません。
例外もある
前述のように広域の地名は範囲内の一地域の地形に由来していると述べてきましたが、例外もあります。
主な例外として下記のようなものがあります。
前・中・後、上・下がつく国名は、元の国名を分割したもの
これはご存じの方も多いかと思いますが、前・中・後、上・下がつく国名は、元あった国名を分割し、畿内に近い方から前・中・後、上・下を、元の国名から一字を取って組み合わせたものです。
従って、地名由来は元の国名をもとにして考えなければなりません。
前後または前中後に分かれた国
- 筑紫国
- 肥国
- 豊国
- 吉備国
- 丹波国 (丹波と丹後に分割)
- 越国
上下に分かれた国
- 毛野国
- 総国
島嶼由来
ただ例外もあり、隠岐は「沖合の島」という由来で、国域全体の地形に由来しています。これは、隠岐が島嶼であるという比較的分かりやすい地形であるためと考えられます。
象徴物由来
他にも例外として近江国・遠江国があります。
これもご存じの方も多いかも知れませんが、近江と遠江には双方とも国内に大きな湖(琵琶湖、浜名湖または磐田湖)があります。
それぞれ畿内から近い湖がある国を近江国、遠い湖がある方を遠江国としたといわれています。
国内の一部の地形(湖)に由来しているといえますが、一部というにはこれらの湖(特に琵琶湖)は規模が大きいと思われます。
これは一部の地形に由来というより、国内の象徴的なものに由来する地名といったほうが適切と思われます。
象徴物由来と思われる主な国
- 摂津国 : 難波の津に由来
- 近江国 : 琵琶湖に由来
- 遠江国 : 浜名湖または磐田湖に由来
- 長門国 : 関門海峡に由来
など
大→小の命名
国名以外では、郡名で小→大ではなく、逆に大→小という命名パターンがあります。
例を挙げれば、備前国上道郡上道郷や同国児島郡児島郷です。由来地名よりも狭い範囲である郷名にその名が冠せられました。
備前国上道郡上道郷の場合
元々、上道郡は備中国の下道郡とともに旧吉備国中枢地域から見て畿内に近い地域を「上道」、遠い地域を「下道」とし、命名されたものです。
おそらく上道郡の中枢的地域に上道郡の中心という意図で郡名を冠した郷を設けたものでしょう。
ちなみに下道郡には郡名と同名郷はありません。
備前国児島郡児島郷の場合
児島郡は、「児島」という島嶼の名前に由来します。
島嶼の児島は『古事記』『日本書紀』にもその名は登場しています。現在は陸続きとなり、児島半島となっています。
児島郡は、その児島を中心とした郡となっていることから、島嶼名に由来して名付けられたと推定されます。
しかし、その中にある児島郷は、島嶼であった「児島」の中のさらにその一地域と推測されています。
つまりその範囲の大小で見ると、児島郡 > 島嶼の児島 (地名由来) > 児島郷となっており、郡名に関しては小→大の命名パターンに当てはまりますが、郷名に関しては地名命名の流れの逆パターンとなっています。
おわりに
国名のような広域を指す地名由来を考えるとき、基本は範囲内の一地域の地形名称を採用しているのを原則と考えながらも、例外もある点も考慮する必要があります。
当サイトでも、国名や郡名などの広域な古い地名の起源は範囲内の一地域の地形にあると第一に考えます。その上で、前述した例外を考慮しながら、地名の由来を考えていきたいと思います。
こちらもご覧ください!
参考資料
- 池邊彌『和名類聚抄郷名考証』吉川弘文館
- 楠原佑介ほか『古代地名語源辞典』東京堂出版
- 二宮道明『地理学事典 改訂版』日本地誌研究所
- 『岡山県の地名』平凡社
- 今尾恵介『生まれる地名、消える地名』実業之日本社
- 楠原佑介『こんな市名はもういらない!』東京堂出版